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色んな会社のビジネスモデルを調べるブログ

実は売上30億の超優良企業。「ほぼ日」の人気の秘密とビジネスモデルに迫る

最近機会があって著名なメディア運営者とお話しをする機会を得ました。
そんな中、参考にしているメディアとして共通の名前が出てきました。

「ほぼ日刊イトイ新聞(ほぼ日)」です。

当時の私の理解はといえば、糸井重里さんが運営しているメディアである、程度のもので、単なる偶然かもしれないと思いつつも気になったので調べてみました。
すると意外な事実がたっぷりてんこ盛りだったんです。

ということで今回は「ほぼ日」のビジネスモデルについて分析を行います。

※ほぼ日ファンの皆様からは「うちらのほぼ日をビジネス目線で見るな」とお叱りをうけるかもしれませんがご容赦ください。

■月間数千万PVを獲得する「ほぼ日」とは?

もともとほぼ日は1998年に有名コピーライターの糸井重里さんが立ち上げた情報サイト。コピーライターとして仕事をするなかで、クライアントを意識せず自由にできる仕事を模索する中で誕生したのがほぼ日だそうです。

本人曰く、ビジネスモデルだとかいう類は当初全く意識しない中で立ち上げたようですが、今ではデイリー100万以上のPVを稼ぐ大人気サイトとなっています。

そのトラフィックの内訳をみて見ると半数以上がdirectトラフィックであり、数多くのリピートファンに支えられているメディアであることはわかります。

 

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※執筆時点SimilarWebによる調査データ。直近3か月のトラフィックソースの内訳。

 そのようにファンの心をつかむ人気サイトにはどんなコンテンツが掲載されているのか?サイトを訪れてみました

 

■WEBメディアっぽくないWEBメディア

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筆者は仕事がら最近のトレンドであるキュレーションメディアだの、バイラルメディアだの数多くの大量情報消費型のメディアを目にします。

個人的に思うことがあって、そうした今風のメディアってどれも同じに見えます。
似たようなテーマを、似たような人が書いて、しかもサイトのテイストや構成も限りなく近い。

そういった意味ではほぼ日は全く今っぽくない。

何が今っぽくないのか?ときかれると非常に難しいですが、筆者が個人的に感じたのは「丁寧で雑誌っぽい」ということ。

雑誌といってもファッション誌の類ではなくて、ライフスタイル提案型の雑誌。

※あまり雑誌には詳しくありませんがKu:nelとかですかね。

(間違った解釈かもしれませんが)筆者が思うに雑誌って1ページ1ページで完結させようとするものでなくてその雑誌の世界感/空気感が好きで読む気がします。

もちろん「カーサのあの特集が好き」のような買い方はあるかもしれませんが、基本的に愛読者はその雑誌を指名買いするわけです。

ほぼ日はほんとに不思議なメディアです。

記事ごとに全く違ったテンプレートを用いていたり、情報量も全くページによって異なっていたり。そもそも記事カテゴリって概念がない。

しかし記事のひとつひとつに「らしさ」を感じます。
丁寧に暮らす、暮らしを楽しむ。
いずれも完璧に的を射た表現ではないかもしれませんが、そんな何ともほっこりした空気感のあるコンテンツに溢れています。

www.1101.com

 

■まさかの「ポーター賞受賞」受賞履歴を持つほぼ日のビジネスモデルとは?

まさかの、とかいいつつ筆者はその存在を知りませんでしたが、ポーター賞というのは一橋大学大学院によって創設されたもので、独自性のある戦略によって競争に成功した日本企業に贈られます。

糸井さんというクリエイディブ界隈の有名人がつくった会社(個人事務所)が戦略論の大家であるポーターの名前を冠るタイトルを獲得というのがしっくりきませんでしたが、受賞理由を見ると納得せざるをえないようです。

 

・ほぼ日の意外な事実達

 

1.そもそも実は年間数十億以上売り上げのある企業である。

巷では、クリエイティブなことをやっている人たちはあまり儲かっていない、という日本的な見方があると思います。かくいう筆者もその一人でこの事実には驚きました。

2012年時点で売上28億。従業員数は当時49人。純利益3億。

 

2.しかも高い利益率を維持し続けている

2012年のポーター賞受賞の理由を述べているルディ和子さんの記事によると、
過去5年間の営業利益率は10~16%で、業界平均との差異は5年間平均で9.5%高とのこと。

 

3.メディア運営者(パブリッシャー)であるにも関わらず広告掲載をしていないし、ユーザーにも課金していない。

年間で30億も売上のあるほぼ日は実はほとんどのメディアが稼ぎの種にしている広告収益に依存していません。
依存していないどころか全くやっていない。

ではどのようにその売り上げを獲得しているかといえば、物販です。
ほぼ日ではオリジナルブランドであるほぼ日手帳を中心にサイトから物販を行っています。
ほぼ日手帳は2012年に46万部売れたそうです。

 2015現在、いくつかの新興メディア(例えばMeryなどがそうか?)がサイトからの物販のモデルを模索しています。4meee!を買収したエニグモなどもそうでしょうか。

すこし形は異なりますが実はほぼ日はすでにこのメディアを通じた物販モデルで成功を遂げていたんですね。

 ※以前北欧暮らしの道具店の紹介を本サイトでも行いましたが、彼らが仕入れ販売に対してほぼ日はオリジナルプロダクトであるため、利益率が比じゃないはず。

 

■ほぼ日の戦略的な特徴

多くのWEBメディアが広告掲載モデルで儲からないと嘆いているなか、ほぼ日はどのようにして上記のような成功にいたったのか。いくつかポイントがあると思うので想像します。

・糸井重里というカリスマの存在

日々数多くのリピーターが再訪するほぼ日のコンテンツには多様な種類がありますが、人気コンテンツには糸井さん自ら関わっているものが少なくありません。

有名人との対談コンテンツやエッセイ、またレシピコンテンツ等にも登場しています。

むしろほぼ日=糸井さんと捉えている読者の方も少なくないのではないでしょうか。

広告費もかけず、これだけ多くの読者に愛されている理由のひとつは、「糸井さんの作り出す世界観が好き」というファンの存在は否定できないと思います。

 

・商品ページすら上質なコンテンツに仕上げている編集力

ほぼ日は物販モデルで売上をあげていると前述しましたね。

サイトを見ているとわかりますが、通常のECサイトと違って彼らの商品コンテンツは見ていてわくわくします。サイトのベースの世界観とマッチしていてしっかりとしたコンテンツとして成立しているんです。

 

▼例えば

www.1101.com

www.1101.com


ユーザーの心理としてはこの商品がほしいから買う、というよりも「その商品が手元にある暮らしを買う」というイメージではないかと感じます。

・独創的な経営思想/組織論

 糸井氏の考えの中で重要なものがあります。それがおもしろくて稼げていること。

「経済的に自立して持続している

 『ユニークな人々』に

 ぼくの興味はあるわけです。

 『おもしろい』ということと、

 『食えてる』ということが両立してることが、

 さらに希望のある

 『おもしろい』につながるんだ」

 ※引用元:ほぼ日刊イトイ新聞 - “Unusual(変わってる)...”

 

それを実現しているほぼ日の秘密の一つは彼の組織に対しての考え方です。

Hubspot社との対談コンテンツの中にほぼ日の組織に対しての考えを綴った件が登場しますが、これがかなり独創的です。

糸井氏は自社の組織を、従来型のピラミッドでなく、それを倒した船のように捉えていると発言。

働く人たちはみんな、フラットなところにいる。

で、かつてトップにいた人は、

上にいるんじゃなくて、いちばん前にいる。

それは、いくらフラットな組織だといっても、

みんながそれぞれに助け合うように

かみ合っていかないと仕事にならないから。

だから、全体はフラットだけど、

いちばん前で行き先を見てる人が必要なんです。

 従来の慣習にとらわれない、「面白くて稼げてる」を体現する背景にはこうした彼らの独自の組織論が存在しているようです。

※ちなみにポーター賞受賞の理由のひとつはこの点。


■実は今後上場を目指すというほぼ日。吉と出るのか凶とでるのか、、、?

色々とほぼ日について見てきましたが糸井重里という人物の存在は大きい。しかしながら代表の糸井氏は御年67歳。いずれ彼抜きでのほぼ日を実現する必要がありますよね。

実はもうほぼ日はこのカリスマ不在体制でのほぼ日のあり方について模索しています。

先日ニュースにも流れていた通り、実はほぼ日は今後数年の間に上場を視野に入れているとのことです。

www.jiji.com

なぜ上場するのか、彼らの良さが死んでしまうのでは?
そうした声もネット上にはちらほらみかけます。

CFOの篠田氏がこの記事内で語っていますが、糸井重里というカリスマなしでやっていける体制を目指すなかでの手段としてIPOということのようです。

現在のほぼ日は糸井というブランドで信用を得ているが、彼不在になった場合を考えると上場企業という信用が必要。

ということでしょうか。

糸井重里というカリスマなしでのほぼ日。
これがうまく実現するかどうか個人的にも非常に興味がありますね。