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色んな会社のビジネスモデルを調べるブログ

介護業界クラウドのカナミックに学ぶ業界特化型SaaSのビジネスモデルと戦い方

2016年月マザーズ上場のカナミック。日本では数少ないVertical(業界特化型) SaaS企業であるため分析をしたいと思います。SaaS系サービスを提供している方はぜひ一読ください。

どんな会社のどんなサービス?

カナミックは「超高齢社会の地域包括ケアをクラウドで支える」という経営理念のもと、医療・介護事業者あるいは被介護者がリアルタイムに情報共有ができる「カナミッククラウド」というICTプラットフォームを提供しています。2000年創業依頼介護・医療領域に根を張っている企業です。

元来介護という領域は医師、介護事業者、デイケアサービス提供者など色々なサービス提供者が存在する領域ですが、全体的にデジタル化の進みが遅く、それが故に被介護者の情報の一元化ができていないため各事業者の情報連携も進んでいませんでした。カナミッククラウドはこうした状況を改善するために提供された解決策です。
サービス提供開始から徐々に利用ユーザーを伸ばし、いまでは日本全国で4万を超えるユーザー(事業者)に利用されるまでに至っています。

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新規上場申請のための有価証券報告書(Iの部)を参考に筆者が作成


カナミックのビジネスモデル

カナミックのビジネスモデルを整理すると下記のようになっています。

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前述したカナミッククラウドを通じた医療・介護事業者へのクラウドサービス提供に加えて、利用ユーザー(B:事業者+C:被介護)に対して広告を配信する事業も展開しています。カナミック利用ユーザーが増える→広告媒体価値をあがるという考え方ですね。

基本的にはカナミッククラウドでの収益が大半ですね。

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新規上場申請のための有価証券報告書(Iの部)から引用


売上利益の推移を見てみると上場時で売上10億の営業利益2億。SaaSの40%ルール(売上対前年増+営業利益率>40%)に照らし合わせても問題のない堅調な伸びです。

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新規上場申請のための有価証券報告書(Iの部)を参考に筆者が作成


カナミッククラウドの導入戦略がなかなか上手

同社の言葉を借りるとカナミッククラウドは2階層の仕組みになっています。

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2017年9月期(第17期)決算説明資料より引用

 

1階層部分が介護事業提供者に対しての業務支援システムであり、2階層部分が情報共有システムの提供です。

カナミックは介護事業者を1つずつ点で攻めるのでなく、自社独自の情報共有システムを売りにしてエリア単位でサービスの導入しその後当該エリア内事業者に1階層部分の導入を勧めます。決算説明会でもそういった旨の発表がありました。

地域を面で入れて、その面の中からどんどん医療介護従事者の方々の業務システムをリプレイスしていただいて、面を取った後の1階のリプレイスをしていくというのが、我々のビジネスモデルでございます。その地域ごとの、ドミナントでの連携をどんどん高めていってよくしていくというところが、我々のビジネス戦略でございます。

 引用元:http://logmi.jp/248741

 なかにはすでに他社の業務支援サービスを利用している事業者もあるでしょうが、すでに情報共有システムを自治体や病院などが導入しているため、「それなら業務支援システムもカナミックにしたほうがいいか」となる流れです。実にうまい。

vertical (業界特化型)SaaSの場合業界標準のクラウドサービスがまだ無く、競合はオンプレミス(自社PCインストール型の非クラウド)というケースもまだまだ多く(特にニッチ業界の場合)、プロダクト力にすぐれたクラウドサービスをつくったらあとはマーケティング×営業をきっちり展開すればまずは利用社数は増やせるというのがシナリオかと思います。

完全に筆者の推測になりますが、介護系の事業者の場合「クラウド化されて便利かもしれないけど現状のやり方を変えるのが嫌」という現状維持意識が強く上記のようにはいかなかったのではないでしょうか。

そのため前述のとおり2階層の仕組みにし、各事業者の連携を売りにした戦略にしているのだと感じました。

同社はすでに柏市を対象に東京大学と提携し、街一体となり自治体・各種介護事業者がつながるモデルケースを作り上げています。また、業者間の連携システムに関しては特許取得済みとのことで他社がここから追いつくのは非常に困難なのだろうと思います。


カナミックの今後について勝手に考察

カナミックは今後もまだまだ伸び続けると思います。理由は2点です。

1.そもそも今後介護が必要な人が爆増

同社決算説明によると今後数十年かけて介護を必要とする人間がぐんぐん増加していきます。ざっと15年で1.5倍。30年で倍といった感じでしょうか。

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2017年9月期(第17期)決算説明資料より

 

それに応じて当然介護事業所も増やす必要があります。
同社発表では2025年には現在の倍近い介護事業所数になるとのことです。

また、もしこうしたマーケットの成長がなかったとしてもカナミッククラウドの現状のマーケットシェアは5%。同社のサービスの強さを考えるとまだまだシェアを伸ばせるはずです。

2.各種プレーヤーが連携し一体となって介護をする、という考え方を国が本格的に推進をはじめる

2015年に介護保険法が改正され、各種自治体は地域の医療・介護を連携させていく取り組みを自治体主導で行わなければいけないとのこと。

つまりカナミック社が提供している連携モデルは「今後そうしていったほうがいいよ」という同社の未来に向けたテーゼではなく、そうしなければいけないという国からのお達しなのです。こうした状況のなかで柏モデルのような先進事例が意味をもってくるのはいうまでもないでしょう。

以上2つの理由からカナミックはよほど失敗しない限り安泰なのではないかと感じました。マーケットの今後の変化を随分前からきちんと見通してプロダクトと導入戦略をつくりあげた感が強いです。

あらためてVertical SaaSは業界の経験&業界洞察力をもつことが本当に大きな意味を持つなと感じました。

メディアビジネス好きの筆者としては同社が提供する広告配信事業も気になるところです。現状は売上全体の5%以下と影響力薄で、このままでは利用者が数倍になっても同社にとっては大きな売上ではないかもしれません。

が、無料でのサービス開放領域を増やして利用ユーザーを増やす、あるいは商品の販売やマッチングなど広告でない新たなマネタイズモデルを確立できればこちらもこちらで面白そうだなと感じます。

いずれにしろ今後が気になる企業です。
以上カナミックのビジネスモデルについての勝手な考察でした。
何かコメント等あればぜひ個別でもお願いします。
それではまた今度。