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ブロックチェーンで出版業界を変える「Publica」のビジネスモデルを分析

2018年4月現在ではブロックチェーンといば仮想通貨を支える技術という印象が強い気がしますがもちろん同技術は金融にとどまらず色々な領域に活用されていくものです。そんな一例として気になる海外サービスを見つけました。次世代出版プラットフォーム「Publica」です。本稿では既存の出版業界の仕組みや既存サービスに触れながらPublicaの何が新しく、それがどのように出版のあり方を変える可能性があるのかについて考察しようと思います。

■Publicaとは?

簡単にいうとPublicaは、独自のトークン「PBL」を使い、 著者が読者から直接本の代金を受け取れる仕組みです。実際に本ができあがるまでの流れを見るとわかりやすいです。下記の図と併せて御覧ください。

まず作品を形にしたい作家は必要な費用を算定してPublica上で クラウドファンディングを実施し、興味を持った読者から資金をPBLで集めます。支援額が目標に達すると本の製作を開始。本の価格、イラストレーターなどの製作協力者への支払い条件を 「スマートコントラクト(ブロックチェーンを用いた電子契約書)」に書き込みます。本が完成すると支援者には「READトークン」が、協力者には対価であるPBLが配布されます。READトークンは当該書籍へのアクセスキーのようなものですね。

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・既存のサービスと比べて何が新しいのか?

昔からある出版社への企画を持ち込み、そしてAmazonで 電子書籍を自費出版(KDP)する場合と比較しながらPublicaの特徵をみてみましょう。

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・Amazonは作家取り分は70%とよさそうに見えるが・・・

Amazonで自費出版する場合は作家の取り分が70%と高く以外と儲かるようにも見えますが、 「Amazon内で販売ができる」という部分以外は全て作家自身がカバーする必要があります。また、意外と手間であろう部分が最後の協力者への分配部分。電子書籍の場合書店に並ぶ紙の本と違い意外と発売から時間がたっても売れ続ける可能性が高いです。その場合未来の長い期間に渡って協力者への支払いを作家が管理しなければなりません。協力者がイラストレーター、校正担当、・・・など複数人且つ、書籍が複数になるととても煩雑になります。

 

・Publicaの特徵は3点

①協力者への印税の支払いが簡便化
Publicaは初期に設定した契約内容に基づいてどのタイミングで売れても適切に 収益が分配されるため上記で述べたAmazon自費出版のケースにおける煩雑な作業から開放されることになります。

②読者の需要を確認してから製作作業に入れる
まずは製作資金をクラウドファンディングで確保するため、「せっかくつくったのに全然売れなかった」ということがありません。
ただしこの点だけに関していえばすでに日本でもキャンプファイヤーなどの クラウドファンディングサービスで同様の趣旨の使われ方がされていますね。(対象数はあまり多くないようですが)

③課金の方法を自由に設定可能
読んだページ数に応じて課金、などの方法も可能であり自由度が高いです。


■Publicaは電子書籍の世界を変えるのか?

ICO時のスケジュールを見る限りでは2018年いっぱいはサービスの開発期間のようなのでまだまだ実際のサービスを使えるのは先になりそうですが、サービスがリリースされた後うまく浸透するのか?その際にどんな点に注意が必要そうか勝手ながら考察してみます。

・日本における電子書籍シェアは約13%。文字ものの電子書籍は全体の2%。

まず電子書籍の市場はどうなっているのか?について。
おそらくPublicaはまず英語圏を中心としたサービスになるでしょうが仮に日本に入ってきたら、ということで日本の電子書籍のシェアから見てみましょう。

公益社団法人全国出版協会が発表しているデータをみると20174年の出版市場は1兆5916億円。うち電子書籍が2215億。

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マンガ以外の電子書籍市場は290億円と市場規模は非常に小さいです。

規模自体は徐々に拡大はしていてインプレス総合研究所『電子書籍ビジネス調査報告書2017』によると文字ものの電子書籍売上は2011年に115億。2016年には359億です。年間約50億円ずつ拡大しています。Publicaはおそらくプラットフォーム内で成約した書籍売上の手数料をとるビジネスだと思いますので、 もしそれが10%(キャンプファイヤーは13%)だとするとすべてのマンガ以外の電子書籍がPublica経由になっても 日本の場合まだ30億程度の売上しか見込めないということになります。

 では海外はどうなのか?について。朝日新聞社デジタル本部の林 智彦さんが執筆されたこちらの記事(https://japan.cnet.com/article/35064650/)によると、アメリカは書籍だけの売上で3兆円規模。電子書籍割合は大きく日本とかわらない10.6%で3600億程度のようです。おそらくこの3600億には日本ほどのコミック売上はないでしょうし、英語での出版物であればアメリカ以外の国で広く受け入れられるのだろうと考えると海外であればPublicaがそれなりの売上インパクトを生み出す市場は存在しそうだなと感じます。

 ・うまくいくためのポイントはなんなのか?

私はPublicaが成功するためには2つのポイントがあると思います。

1つ目はPublicaがいい協力者が出会えるプラットフォームであること。
一流の作家であれば各種協力者のネットワークを持っているのでしょうが、そうでない人にとっては協力者への収益分配の仕組みだけあっても困ります。Publicaが作家と良い協力者の出会いの場である必要があります。おそらく作家が作品の構想をポストするとそれに賛同する協力者が手を上げるような ランサーズ的な仕組みになるのかな?と思います。

2つ目はPublica自体がプラットフォームとして集客力を持つこと。

でないと一部の影響力を持つユーザーしかクラウドファンディングが成立しません。「革命のファンファーレ 現代のお金と広告」の西野さんがいうところの「クラウドファンディング=信用の現金化」という考えはその通りだと思いますが、その発想を超えないと数多くの本がPublicaから誕生ということはないと思います。

例えば今Noteで記事を沢山現金化できているユーザーのほとんどがどこか他の場所ですでに信頼(宣伝のチャネル)を持っていています。内容さえよければNoteというプラットフォームにコンテンツをのせれば売れる、なんて都合のよいことは起きてませんよね。私たちは今著者への信頼以外の要素でも書店でも、Amazonで本を購入しています。Publicaもプラットフォーム自体が集客に寄与しなければいけないはずです。

 


以上Publicaのビジネスモデルの調査と今後に対しての考察でした。

どのような形でサービスがリリースされるのか、またそれがどのように市場に受け入れられるのか。完成を待ちつつまた改めて本ブログで取り上げたいと思います。