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Buzzfeedの先をいくメディア?「Nowthis」がとる WEBサイトを持たない分散型コンテンツ戦略とそのビジネスモデルとは?

バイラルメディアの元祖ともいえるBuzzfeedが提唱していた分散型コンテンツという戦略。

それは今ついに計画の段階から検証の段階に歩を進めており、ついには彼らの提唱していた戦略を実践に移すプレーヤーも現れました。

本稿ではそもそもBuzzfeedが提唱していた分散型コンテンツが何たるかを示したうえで実際にそれがどういった形でメディアの形に変化を与えるかについて、海外振興メディアを例に挙げながら論じたいと思います

 

Buzzfeedの提唱している「分散型コンテンツ」とその戦略の意図

皆さんは「分散型コンテンツ」という言葉をご存知でしょうか。
筆者がそれに初めてそれに出会ったのはこちらの記事でした。

mediadisruption.net

 

記事によるとバイラルメディアの祖ともいえるBuzzfeedがメディアビジネスの将来を左右する構想をいだいているというのです。

同記事はBuzzfeed編集長であるBen SmithとBusiness Insiderの記者とのインタビューをもとに論考を行っている記事です。
要点となる部分を引用させていただきます。

同社のアイデアに、「分散型 BuzzFeed」がある。それは20人ほどのチームが、Tumblr や Instagram、そして SnapChat などの人気のある他のプラットフォームに完全に依存するコンテンツを産出しようというものだ。

すべて のBuzzFeed のコンテンツは、他のプラットフォーム上で生きていけるだろうとした。たとえば、Facebook。その当時でも BuzzFeed の主要なトラフィックはそこからきていることを示したのだった。

つまりBuzzfeedはもはや自社のWEBサイトを持つ必要すらなく主要SNSプラットフォーム内にコンテンツを配信していく戦略をとってもいいのではないか?という考えなわけです。

自社WEBサイトをなくす、というのは幾分突飛な響きに感じるかもしれませんが、仮にそれを実現した場合なにが起きるのか。それはビジネスモデルの変革です。

つまり今までのメディアが自社メディアの集客にこだわらなくては行けなかった理由はそこに表示させている広告をユーザーに見てもらうことで収益を発生させていたから。

そうしたビジネスモデルは本質的には大きく変わることなくWEBメディア創世記から現在に至っていますが、分散型コンテンツの構想の場合この伝統的とも言えるWEBメディアのビジネスモデルを変革する可能性を秘めているのです。

しかしながらこの記事がリリースされた2014年8月時点では当時はこの分散型コンテンツという考え方があくまでアイディアベースの構想としてインタビューの中で語られていたにすぎず、分散型コンテンツを支えるビジネスモデルについても触れられることはありませんでした。

しかし2015年3月にBuzzfeedのCEOであるJonah Peretti氏が行った公演で、Buzzfeedが実際に上記構想に近づいている旨が同社の戦略として語られたのです。

リンク情報を流して集客を期待するのは「すでに時代遅れ」のものであるとのこと。
「リファラルによるトラフィックは、コンテンツ閲覧者に比べると非常に小さな数字となっています」と言っている。
確かに、インプレッション数を見るとTwitter上で8億4700万、Pinterestで60億、そしてさらにFacebookでは113億という数字になっているのだ。

引用元:
BuzzFeed CEO曰く「リンクのシェアは時代遅れ。コンテンツを流せばチャンスが広がる」 | TechCrunch Japan


簡単にいうと、FacebookやTwitterといったソーシャルメディアで流れているBuzzfeedのコンテンツを見たユーザーを見た人は、実際にそこからリンクされているBuzzfeedのサイトに訪れるユーザー数に比べて圧倒的に多いのだから、自社サイトへのリンクでなく、各外部プラットフォームに最適化されたコンテンツを配信していくのだ。ということ。
その規模については下記のチャートを見ていただければおわかりかと思います。

f:id:hayashi00:20150517105131j:plain

 

※上記記事内の画像を元に筆者が作成。

その発想を支えているのはBuzzfeedの収益源となっているネイティブ広告です。
ネイティブ広告においては当該記事がどれだけ人の目に触れるか、がキモであって、それはサイト全体のPVがどれだけかに勝る指標になります。

であればFacebookに自社記事へのリンクを張るのではなく、コンテンツをそのまま配信してしまおう、そちらのほうがより多くのユーザーの目に触れる。という理屈です。

しかし実際にBuzzfeedが自社サイトのトラフィックを無視してどんどん縮小しているかというとそうではなく、約月間2億ユニークという圧倒的なトラフィックは未だ健全のようです。

 

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※quantcastを用いて調査。

ここまで大きく育ったBuzzfeedが一気に舵をとることはそうたやすいことではないでしょう。そういった意味ではBuzzfeedの分散型コンテンツ構想(脱自社サイト化)は未だ実証(移行へのテスト)フェーズであるといえるのではないでしょうか。


■脱自社サイト化に乗り切った「Nowthis」の登場

そんな中出会ったのがこの記事でした。

gendai.ismedia.jp


どうやらBuzzfeedの構想を実践する新興企業が現れたようです。それがNowthis。

ナウディスはおもに1分以内の短い動画ニュースを配信するメディア。2012年にハフィントンポスト共同創業者のケネス・レラー氏と元ハフィントンポストCEOのエリック・ヒッポー氏らによって立ち上げられました。

サイトに訪れるとそこに彼らのメッセージが強烈に込められています。

 

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ホームページなんて言葉はもう古い。ニュースはもうあなたのいる「そこ」にいるのだから

 

※あまりうまい翻訳ではないかもしれませんが、、。


自社サイトはこのTOPページが1枚だけ。あとは各ソーシャルプラットフォームへの誘導があるだけなのです。

・Nowthisのコンテンツ分散化

ツイッター、フェイスブックの活用はもちろん、Nowthisは8つのSNSおよびチャットサービスを利用しています。
プラットフォーム単位でユーザーの志向やサービス上の制限があるため、例えばヴァインでは6秒、インスタグラムでは15秒と、動画の長さを再編集するし最適化したうえで配信を行っています。

ちなみに記事執筆時点で

・Facebook・・・ 77万FAN
・Twitter・・・ 36万フォロワー
・Youtube・・・ 14万フォロワー
・Instagram・・・ 月間500万再生


■Nowthisのビジネスモデル

彼らの収益モデルを図解すると下記のようになっています。

 

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・レベニューシェアに関してはメディア界においては珍しいことではないです。
日本でいうとYahooニュースに対してコンテンツ配信をし、Yahooニュース内でのPVにあわせて収益をバックしてもらうというもの。
※もちろんこうした有料での契約はどのメディアでもできるわけではありませんが。。

・ブランドコンテンツに関しては彼らのコンテンツの形式が動画、という点が脱自社WEBサイト化を後押ししています。

どういうことか。

ブランド広告を自社サイトに誘引することなく価値を出すためには他社プラットフォームに配信したコンテンツがそれ単体でコンテンツ価値を出していなくてはいけません。
従来型の画像+文字のコンテンツでは伝えられる情報量などが限られますが、動画であればそれが可能になります。

・データ販売

まだ彼らも模索中とのことですが、どんなコンテンツが流行るかを常に調査しデータを保有している強みを活かしてビジネスを展開したいという思惑のようです。

■分散型メディアのメリット / デメリット

・メリット

月に何億PVを獲得しようが自社サイトでないため運用コストが安い点は大きな魅力であると考えられます。サーバー代もかからなければそのインフラを支えるエンジニアも必要がない。

・デメリット

すべてが他社プラットフォームのルール下にある点。
例えば仮にFBで大きな仕様変更等があったらそれに従わざるを得ない。なにせ彼らのプラットフォーム内で勝手にお商売をしているわけですから。しかし他者依存という点では従来型メディアもGoogleのアルゴリズムや提携メディアの配信ポリシーに大きく影響を受けているので同じではないか。
あとは検索エンジンからの流入が期待できないことでしょうか。


■今後分散型メディアは増えていくのか?

Nowthisの場合は動画というコンテンツ形式であるためいち早くこの戦略がとれたように思います。
また、今後の情報がすべて動画という形式に置き換わっていくかというともちろんそうでないでしょう。

しかしながら現在動画で配信されるべき(したほうがわかりやすいし面白い)情報がテキストベースで流通していることも事実です。
そういった意味では日本でもNowthisのようなモデルを選択してくるプレーヤーも現れるのではないかと思います。

既存のメディアは自らのサイトを捨て、Nowthis化すべきなのか?
筆者個人としてはメリットデメリットを考えた場合に脱WEBサイト化を進めるというのは現時点では本当に限られたプレーヤに対しての選択肢であるように感じます。

Buzzfeedの次の一手や、欧米主要メディアの反応も気になるところですが、
現時点では、「一部動画を中心としたメディアが脱自社サイト化していくだろう」という予想にとどめ、今後の各社の動向に注視したいと思います。

追記1:

ちょうど記事を書き終えるタイミングで

gendai.ismedia.jp

 

こちらの記事を拝見しました。

同記事はソフトバンク・キャピタルでヴァイス・プレジデントを務めるフィル・シェブリン氏へのインタビュー記事ですが、氏曰く

「バズフィードは収入を拡大するために分散型コンテンツをやろうとしている。それぞれのプラットフォームで稼ぎたいんだ。

(中略)

プラットフォームごとにコンテンツを出すのは、ある意味ハリウッドのビジネスモデルに近い。ハリウッドはまず初めに映画館にコンテンツを流す。次に飛行機に出す。次にケーブルのVODに出す。最後にタダでテレビで流す。人々は何度も同じコンテンツを別の場所でなら見る。なぜなら、忘れるからだ。Webでこれに近いものができるのではないか、というのが分散型の考え方の1つだ。

 Buzzfeedはそもそも自社サイトを捨てる戦略でなく映画のようなコンテンツ・ビジネスと一緒でうまく2次利用しようとしている、というわけですね。なるほど。

確かにBuzzfeedがいきなり脱自社サイト化しました、
というのは考えづらいのでそのように考えるとしっくりきます。

 

追記2:

本稿ではテキスト+画像記事は分散型コンテンツに向かない、と位置づけましたが、Facebook社が発表したインスタント記事はもしかしたらそれを変える可能性がありますね。今後の動向に注目です。

techcrunch.com